イノベーションのための思考法「アブダクション」とは?

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第3の論理的推論法と言われている「アブダクション」を知っていますか?

論理的推論法といえば、「帰納法(きのうほう)」や「演繹法(えんえきほう)」が有名で、一度は耳にしたことがあると思いますが、今回ご紹介する「アブダクション」もこれらと横並びの推論法です。

今、この「アブダクション」がイノベーションのための思考法として注目を浴びています。

今回は、「帰納法」や「演繹法」のおさらいをしながら、「アブダクション」とは何かについて整理していきたいと思います。

論理的推論法とは?

「推論」とは、かんたんに一言でいうと、「すでにわかっていることを手掛かりに、まだわかっていないことを予想して、それを論じること」です。

自分の意見に妥当性を持たせて主張したい時などに有用で、おそらくみなさんも自然に使っているのではないかと思います。

たとえば、学生であれば、ご自身の研究の意義を人に伝える時、社会人であれば、クライアントに提案する時、・・・などなど。

「帰納」と「演繹」のおさらい

まずは、今回の主題である「アブダクション」の前に、「帰納法」と「演繹法」をかんたんにおさらいしたいと思います。

帰納法(インダクション)

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帰納法は、上図の通り、「あらゆる事実から、規則性や法則性を見出し、結果の考察を通して、仮説を構築する」というプロセスを踏みます。

たとえば、上司に対して「部内のコミュニケーション活性化のために定期的に飲み会を開催した方が良い!(経費で)」と提案したい時、帰納法を使って説得しようとするならば、以下のような感じになります。

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部下

A社(他社)では、部内のコミュニケーション活性化のために定期的に飲み会を開催しているらしいです。それによって、部内の風通しが良くなり、事業にスピード感が出てきたそうです。A社の部長は、飲み会というコミュニケーションの場を設けるようにして、本当に良かったと言っていました。それを聞きつけたB社(他社)も真似をしはじめたらしいのですが、これまた成功しているそうです。うちの会社でも部内のコミュニケーション活性化のために定期的に飲み会を開催しませんか?

ただ単に、上司に「部内で定期的に飲み会を開催しましょう!」というよりも、提案に説得力がありますよね。

上記の例を整理すると、以下のようになります。

あらゆる事実:

A社もB社も、定期的な飲み会を導入したら良い効果が出た

結果の考察:

部内の定期的な飲み会は、良い効果をもたらすと考えられる

仮説の構築:

うちの会社でも、部内の定期的な飲み会を導入したら、良い効果が出るのではないだろうか

演繹法(ディダクション)

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演繹法は、上図の通り、「一般的に妥当性が高いとされる仮説を用いり、その仮説が、起こっている事実にも当てはまりそうなことを確認した上で、結果を導き出す」というプロセスを踏みます。

先ほどと同じように、上司に「部内のコミュニケーション活性化のために定期的に飲み会を開催した方が良い!(経費で)」と提案したい時、演繹法を使って説得しようとするならば、以下のような感じになります。

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部下

”飲みニケーション”という言葉がある通り、一般的に、部内で飲み会を開くことで、そこで話される親密な会話や悩み事を通して、社員同士の距離が縮まったり、打ち解け合うことができたり、良好な人間関係を築く効果があるとされています。うちの会社は、部内でのコミュニケーションも少なく、風通しも良いとは言えない雰囲気ですので、良好な関係を築くためにも、定期的に飲み会を開催しませんか?

上記の例を整理すると、以下のようになります。

一般的な仮説:

飲み会によって良好な人間関係を築くことができる

仮説に対応しそうな事実:

社員同士に距離があるうちの会社でも、これは当てはまりそうである

導き出した結果:

うちの会社でも定期的な飲み会を導入すれば、人間関係を良好にすることができる

アブダクション(リトロダクション)とは?

帰納法と演繹法の図を見て、「以下の図のようなパターンの矢印もあるはずだ」と察している方も多いと思いますが、そうです。まさに以下の図が「アブダクション」です。

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「驚くべき結果があり、なぜそのような結果になったのかについて仮説を構築し、その仮説が正しければ、確かにそういった事実があったとしても、うなずくことができる」というプロセスを踏むのが「アブダクション」といわれる推論法です。

今までと同様に、上司に「部内のコミュニケーション活性化のために定期的に飲み会を開催した方が良い!(経費で)」と提案したい時、アブダクションを使って説得しようとするならば、以下のような感じになります。

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部下

最近、A社(他社)の事業にスピード感があり、すごく好調のようです。そこで、A社の好調さについて考えていたら、こんな噂が入ってきました。なんと、A社は少し前から、部内でのコミュニケーション活性化のために、会社のお金で定期的に飲み会を開催することができる制度を導入したそうです。もし、この飲み会制度によって、A社の人間関係が深まり、社員同士の連携によって一体感が出てきたと考えれば、確かに、A社の最近のあのスピード感も納得です。うちの会社でも、真似をして、飲み会を開催しませんか?

上記の例を整理すると、以下のようになります。

驚くべき結果:

A社の事業にスピード感があり、とても好調である

仮説の構築:

少し前に、A社は飲み会制度を導入したらしいが、それが要因ではないだろうか

事実の考察:

確かに、飲み会制度がうまく機能しているのであれば、A社のあのスピード感も納得することができる

アブダクションからイノベーションに向かって

もしあなたが上司で、先ほどのアブダクションによる提案を部下から聞いたら、次のように思うのではないでしょうか。

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上司

確かに、A社の最近の好調さには、飲み会制度の導入も関係しているかもしれないけど、でも、そうじゃない可能性もあるよね?もしかしたら、組織の再編成とか、作業フローの見直しとか、業務システムの導入とか、別の可能性だって考えられるよね?君、飲み会開きたいからって、適当なこと言ってない?

そうなんです。アブダクションというのは、他の推論法よりも不安定であることが特徴といわれています。それもそのはず。部下は、当てずっぽうで発言をしているようなものですからね。

でも、なぜ、こんな不安定な推論法が「第3の論理的推論法」や「イノベーションのための思考法」として注目を浴びているのでしょうか。

先ほどの上司の返しをよく見てみると、A社の最近の好調さの要因として、「飲み会制度」以外にも「組織の再編成」や「作業フローの見直し」、「業務システムの導入」と、今までの会話の中には出てきていなかった全く新しい別の可能性を生み出しています。

先ほどの「当てずっぽう」という言葉。一見、悪く聞こえますが、言い方をかえると「アイデアの創造」でもある、ということです。この、「アイデアの創造」や「その先に起こり得るイノベーション」に、アブダクションという推論法が一役買っているというわけなのです。

以前、「スペキュラティヴ・デザイン」に関する記事を執筆したことがありますが、かなり近い考え方であると思います。アブダクションでは、「起きていること」を、スペキュラティヴ・デザインでは「起こり得る未来」を前提に、現状からの路線変更(イノベーション)の可能性を秘めながら思考を開始させる、という共通点があります。

おわりに

みなさんが普段見ている、いつも通りの景色や、日常の中で起こっていることに対して、あえて「驚くべき」と頭につけるように、意識的に思考をしてみてください。

たとえば、「本屋で立ち読みしている人がいる!」など。すると、「なぜ買わずに、立ってまで読んでいるのだろう?」、「なぜ、お店の人は利益が出ないのに、それを良しとしているのだろう?」などと、疑問や議論が浮かび上がってきます。

これらの問題提起とそれに対する仮説構築は、何か新しいビジネスのアイデアや、今までの常識を覆すような提案に繋がる可能性を秘めているのだと、著者は考えています。

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