【先端研究レビュー】今、デザインの領域ではどんなことが話されているの?

デザイン

みなさんは「スペキュラティヴ・デザイン」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

「デザイン」と聞くと「問題を解決するためのもの」という認識を持たれる方が多いと思いますが、最近では、「問題提起のためのデザイン(=スペキュラティヴ・デザイン)」というデザインの新たな可能性にも注目が集まっていて、先端的な研究分野の一つとしても確立されています。

今回は、普段、あまりデザインについて考える機会が少ない方でも、サラっと読むだけで、ここ最近のデザインの潮流がわかるように、整理をしていきたいと思います。

そもそも「デザイン」って?

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「デザイン」という言葉を耳にして、何を思い浮かべますか?たとえば、ある洋服を見て、「そのデザインいいね!」や「これは、お気に入りのデザイン」といった会話があったとすれば、おそらく、デザイン=形、色、柄など、つまり「意匠」という意味で使われているかと思います。

しかし、「デザイン」という言葉の輸入元である英語圏では、「デザイン」は「問題を解決する行為」のことを指し、先ほどの「意匠」については「スタイル」という言葉が別に存在しています。

このような状況になったのは、戦後、「デザイン」という言葉が日本にやってくる時に「意匠」のように訳され、これが世間一般的に広まったという経緯があるためです。

今ある世界のためのデザイン/デザイン思考

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これまでは、「デザイン」というと、「問題解決のためのもの」あるいは「答えや解決策を提供してくれるもの」という認識を持つ人が多く、今ある世界で直面している様々な問題がデザインの対象となっていました。

先ほどお話ししたような、問題解決の考え方のひとつとして、ここ最近「デザイン思考」という言葉が注目を浴びています。

「デザイン思考」とは、無理に一言で説明すると、「ユーザー理解によるインサイトから問題を再定義し、解決のためのアイデアをプロトタイピング的に素早く実装することで、多くの気づきを得ながら、検証とレビューを繰り返すプロセスを通して、新たな解を生み出そうとする考え方」です。

しかし、上記のような、「直面する問題を人間に合わせて解決していくことで、より良い世界へ変えていくという考え方」が高まる一方で、本当はもっと複雑な問題や倫理的な問題、解決不能な問題であっても、素早く単純明快に「解決」しようとしてしまうことに批判的な意見も挙がるようになりました。

あり得る世界のためのデザイン/スペキュラティヴ・デザイン

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2013年に発表された書籍「Speculative Everything: Design, Fiction, and Social Dreaming」の中で、「デザイン思考」へのやや批判的な意味合いも混じりながらも「デザイン」の新たな可能性として「スペキュラティヴ・デザイン」というコンセプトが提唱されました。その後、2015年には同書籍の日本語版が発表され、そのコンセプトは、一気に注目されるようになりました。

スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。?未来を思索するためにデザインができること

スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題提起へ。-未来を思索するためにデザインができること

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この、あまり聞きなれない”speculative”(=スペキュラティヴ)という言葉には、「思索的」や「推測的」などといった意味合いがあり、これに「デザイン」と続けば、「未来を思索し、望ましい世界にするためのデザイン」(=スペキュラティヴ・デザイン)のようなニュアンスを持ちます。

この「スペキュラティヴ・デザイン」は、現状からの改善や改良によって問題を解決するのではなく、コンセプチュアルなシナリオ表現で、あり得る世界をイメージさせ、現状という制約を飛び出した範囲で、物事の全く別の可能性を考える(考えさせる)、いわば現状からの路線変更を提案するものです。

つまり、問題解決のためのデザインは、人間を中心に世界を変えようとするものでしたが、スペキュラティヴ・デザインは、世界に合わせて人間を変えていくものといえます。

スペキュラティヴ・デザインは、このようにして物事の全く別の可能性を考えさせると同時に、多くの議論や新しい問題、倫理的な問題を生み出します。そして、こういった問題提起こそがデザインあるいはデザイナーの使命だと言われています。

おわりに

今回は、「スペキュラティヴ・デザイン」を中心としたデザインの潮流をかんたんにご説明しました。この記事を通して、「先端分野では、こういったことが考えられているんだ」と知ってもらえるだけで、十分だと思っています。

デザイン思考とスペキュラティヴ・デザイン。誤解のないように補足をすると、これらのうち、どちらが優れている、または劣っているという話ではなく、「デザインには様々な可能性がある」ことを知ってもらいたかった、という意図があります。

この記事が、こういった先端分野に足を踏み入れるきっかけになれば幸いです。

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